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日記

なぜとんぼが舌を出して笑うんだ

いつものスーパー。冷食庫のガラス戸を開いてしゃがんだ。大盛りのミートソースパスタをつかんだ。128円という安さだ。BGMが長渕剛の「とんぼ」だなと気づいた。最後のパート。

脳髄の眉間のあたりで、まだ入ったことのないスイッチが入った。電流が走る。ひらめく。幸せのとんぼが舌を出して笑っているって、なんなんだ。異常だ。ガラス戸の取っ手をつかんだまま、中腰で考えた。光景を脳裏に思い浮かべようとした。子供が描いた落書きにしかならなかった。とんぼに舌はない。何度も聞いたことのある歌詞に、今はじめて疑問をもった自分の鈍感さにも嫌気がさした。カートにつかまったお婆さんが横から視界に入ってきた。冷食庫のパスタコーナーの前から動いた。

帰宅した。大盛りミートソースパスタを開封し、皿に乗せた。電子レンジに入れ、600ワットで6分30秒に設定し、スタート。キッチンを片付けた。しばらくして熱い皿をテーブルに置いた。

「とんぼ」は、都会にやってきて夢破れた若者をうたった。前半は、よくある歌詞だ。しかし、後半、唐突にとんぼが登場する。幸せの象徴として。どこへ飛んでいくのかわからない。そいつが舌を出して笑う。若年の心境をまじめにうたえばうたうほど、ワンパターンなセンチメンタリズムにおちいってしまう。詩としては凡庸の域を抜け出せない。しかし、とんぼに舌を出させることで、こんなに鮮明な印象を聞く者に与えるのか。

気づくと冷食パスタは消えていた。皿とフォークを洗った。外袋と内袋を折りたたみ、ごみ箱の下のほうに差し込んだ。ジャンクなものを食べると妻が怒る。

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