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日記

「プリズナートレーニング」はテレワーク時代にぴったりの自重トレだ

表紙はパンツ一丁のビスケット・オリバ。

「元囚人の“コーチ”が伝授」「スパルタ軍、ローマの剣闘士」「世界の監獄で秘かに受け継がれてきた」

という煽り文句。すべてがうさんくさい。

でもこの本、内容はとても真面目。自重トレの教科書。自宅で思い立ったときに、身ひとつでできる、テレワーク時代に適した筋トレだ。

圧倒的な強さを手に入れられる!? 究極の自重筋トレ

著者のポール・ウェイドは、22歳で監獄に入り、20年以上をそこで過ごした。

同じ監房にいた元アメリカ海軍特殊部隊の囚人に師事し、キャリステニクス(自重トレのカッコいい呼び方)を学ぶ。その後、体操選手、兵士、ヨガの先生、武道家に教えを乞い、独自のキャリステニクスのシステムを構築した。

彼はいつしか、新入り囚人から「コーチ」と呼ばれ、教えを乞われるようになった。

キャリステニクスの源流は、ウェイドによれば、古代オリンピックのアスリートたち。戦闘種族のスパルタ人、コロッセオのグラディエーター、十字軍。強さを求めた男たちに、その技術は連綿と受け継がれてきた。

そして20世紀後半。容易に重量を変更できるバーベルが登場し、ウェイトトレーニングが普及し、キャリステニクスはすたれて、ライトなエアロビクスエクササイズとなってしまう。

しかし。唯一、本当のキャリステニクスが生き残った場所があった。そう、監獄だ。

……と、本書の冒頭では、B級アクション映画のようなノリでキャリステニクスが語られる。

いいねこういうの。大好き。あなたが「スパルタ軍」「監獄」「囚人」といったキーワードにワクワクするなら、私と同じく本書は肌に合うはず。

壮大な前フリなのに極めて地味な自重トレ

本書が説く自重トレは、極めて地味で、退屈だ。監獄でもできるメニューだから、当然なんだけど。

ウェイドは、キャリステニクスを、ターゲットとする筋肉によって「ビッグ6」のメニューに分けた。

  1. プッシュアップ 胸と三頭筋
  2. スクワット 脚
  3. プルアップ 背中と二頭筋
  4. レッグレイズ 腹筋
  5. ブリッジ 脊柱起立筋
  6. ハンドスタンド・プッシュアップ 肩

というように。

そしてそれぞれに、10のステップを設けた。

たとえば、プッシュアップ(腕立て伏せ)のステップ1は、立ち上がって壁に手をつき、腕立て伏せの動作をする「ウォール・プッシュアップ」だ。

どのメニューも、最初のステップは容易で、誰にでもできる。しかし次第に難易度が上がり、最後のステップは曲芸レベルの難易度だ。プッシュアップのステップ10は片手腕立て伏せ。

解説はていねいで、さすが「コーチ」とうなずける。

たとえばプルアップ(懸垂のこと)の方法をこれほど詳細に解説した本は見たことがない。腹筋の解説などは、ウェイトを使うトレーニーにも必読ではないだろうか。

関節の保護と強化にも触れていて、ヒザやヒジ関節の消耗に悩むアラフィフのオジさんとしてはありがたい。

トレーニングへの向き合い方、続け方など、しつこいぐらいに“コーチ”が教えてくれる。ケレン味のある表紙や煽り文句とは裏腹に、中身は堅実なカラダ作りの本だ。

テキスト主体の古くさい本だけどそれがいい

YouTubeが全盛で、優れたトレーニーの動画をいつでも参照できる時代だ。でも、いくら動画を見たってそれをすぐに実践できるわけじゃない。

技術とは、「言語化」されたものを自分の頭を通して、実際に何度もやってみて、それで初めて会得できるのではないか。動画もいいけど、文字も依然として優れた情報伝達手段なのだ。

難しい動作を全部テキストで解説しようと試みていて、とっつきにくさはある。しかし、ウェイドのテキストには麻薬的なクセがあって、読めば読むほど味わいがあることに気づくだろう。

刑務所に魅力を感じる男たち

それにしても、刑務所に入りたいとは思わないけど、なぜこれほど刑務所に惹かれるのだろう。

刑務所が、しょっちゅうアクション映画のステージとなるのは、少なくない数の男たちが刑務所に魅力を感じているからではないか。

「筋トレ」という退屈で、習慣とするのが困難な行為に、「刑務所」という要素をプラスしてしまった著者ポール・ウェイドは偉大だ。

ただの腕立て伏せも、

「これはザ・ファーム(アンゴラにある全米で最もタフな刑務所)で受け継がれてきたキャリステニクスなのだ」

というストーリーを付加すれば、冷たい独房で復讐を誓いながら一心不乱にトレーニングするB級アクション映画の主人公の気分を味わえる。

これがもし、すらりとした裸のイケメンが表紙で笑う「自重トレでボディメイク!」みたいな本だったら、私は書店で手に取りさえしなかっただろう。

プリズナートレーニングの内容からすると、ビスケット・オリバが表紙に最適とはいえないが、なかなかいい人選なのかもしれない。

▲プリズナー・トレーニング第2弾。首、握力、ふくらはぎ、そして全身の痛みのケアにまで言及。

▲プリズナー・トレーニング第3弾。まだ未読。