システム手帳。この便利で魅惑的なツール。
どうやって生まれ、普及したのだろうか。まとめてみた。
以下、特に記述がない限り、システム手帳の始祖であるバイブルサイズについて。
1921年 Norman&Hill社がイギリスでシステム手帳を発売
1921年、Norman&Hill(ノーマン・アンド・ヒル)社が6穴バインダーの手帳を発売した。軍の将校の発案によるもの、とされている。
Norman&Hill社時代のバインダー、ヤフオクに出品されていたのを見たことがあるが、ウィンチェスターのような雰囲気だった。
N&Hの刻印の下に、すでに「FILOFAX」の文字があった。Fは大文字だった。高価だったので入札はあきらめた。
軍の将校がリフィルを差し替えできる手帳を必要としたのは、第一次世界大戦(1914-1918)による。
機関銃、戦車、戦闘機、毒ガスといった新兵器が登場し、被害は甚大となった。前線で指揮を執る将校が、人員の状態、弾薬の補給、天候の変化などを把握し、的確に指示しなければならない。しかしそれらはもはや、個人の頭の中で処理できる情報量ではなかったのだ。
オフィスではなく、現場で情報を処理し、結果を出す必要がある軍人が、まずシステム手帳を必要としたというのはおもしろい。
同様に、オフィスではなく現場での情報処理を必要とした職業として、牧師にもシステム手帳は普及していった。
1940年 Norman&Hill社のオフィスがロンドン空爆で焼失するが
第二次世界大戦、ドイツによるロンドン空爆で、Norman&Hill社のオフィスが焼失した。
顧客データも失われたかと思いきや、同社設立時からの秘書、グレース・スカール女史が自分のシステム手帳に顧客リストを残しており、それをもとに営業を続けることができたというのは有名な話だ。

▲1987年のファイロファックス社のカタログ。
Norman&Hill社は後にファイロファックス社となった。スカール女史と戦災を逃れたシステム手帳は、右上のようなリングが2本あるモデル。よく雑誌などでも写真が紹介されていた。
1995年ごろ、グレース・スカールモデルの復刻版が発売されていたような記憶がある。

▲グレース・スカールさんが93歳になったときの新聞記事。ファイロファックス公式より。
1968年 日本発のシステム手帳「システム・ダイアリー」が発売
システム・ダイアリーは日本が生んだシステム手帳だ。
私も1995年ごろにつかいはじめた記憶がある。あのころは、あちこちの文具店の店頭に、システム・ダイアリーのリフィルが置いてあって、入手性がよかった。
「一冊の手帳で夢は必ずかなう」の熊谷社長も、当初はシステム・ダイアリーのユーザーだったことが、本に書いてあったっけ。
先日、喫茶店でシステム・ダイアリーをつかっているお年寄りを見かけたが、使いこんだその手帳がすさまじくカッコよかった。
ちなみに、システム手帳でなく綴じた手帳だが、能率手帳が生まれたのが1949年のこと。
1984年 ファイロファックスが日本上陸
日本がバブル経済にわいていた80年代、ファイロファックスが日本でも発売された。
80年代のファイロファックスのバインダーの名作「ウィンチェスター」はいつか入手したいものだ。
私は90年代半ばに社会人となり、システム手帳という便利なものにはじめて触れたが、そのころにはすでにファイロファックスのバインダーは、一部の高級モデル以外は作りが安っぽくなっていたことを記憶している。
ウィンチェスター、2016年にはファイロファックスの95周年記念ということで復刻され、日本でも200冊が限定発売されていたそうで、気づかずに惜しいことをした。次は100周年に復刻してほしい。
1985年 ノックスブレインがシステム手帳を発売
バッグなどの革小物を手がけるノックスというブランドが、1985年にステーショナリーのブランドとして「ノックスブレイン」を立ち上げ、リフィルまで含めたシステム手帳の販売をスタートしている。
システム手帳はさまざまなメーカーがあるが、80年代のブーム当初から、バインダー、リフィル、さまざまなパーツまでを一貫して作り続けているのはわずか。ノックスブレインはそのひとつ。
革製品に愛着を持つ、という文化をはじめて提案したのも、ノックスブレインだったような気がする。今ではあらゆる革製品メーカーがやってることだけど。
ノックスブレインは2008年、ブランドを刷新して製品を一新したが、女性向けのキラキラなカワイイ製品となってしまい、おじさんとしては時代の流れに悲しんだものだが、この方向はウケが良くなかったのか、現在では質実剛健に方向修正したようだ。
1986年 アシュフォードがシステム手帳を発売
アシュフォードは、80年代のブーム当初から、バインダー、リフィル、さまざまなパーツまでを一貫して作り続けているブランドのひとつ。
名作、迷作含め、意欲的にさまざまなバインダーを作り続けてきたメーカーだ。
アシュフォードは、バインダーを「ジャケット」と呼ぶ。
ASHFORDではバインダーの事を、自分を着飾る洋服に例えて「JACKET」と呼びます。
それはお客様が使用するリフィルには人に見られたくない秘密な事やプライバシーに関わる大事な事が書いてある「自分自身」と例えているからです。
▲アシュフォード公式より。
アシュフォードにせよ、ノックスブレインにせよ、現場で情報を運用するための道具でしかなかったシステム手帳を、レザーのエイジングに愛着を持ち、洋服にたとえるような製品にまで昇華させたといえよう。日本人の得意技か。
1986年 「スーパー手帳の仕事術」が発刊
ファイロファックス、そしてシステム手帳人気に火を付けた山根 一眞氏の著作。今読むと、さすがに内容は古いが、ハッとする記述もある。
「ファイロファックスは携帯オフィスだ」という一文とか。
パソコンが仕事道具として普及する以前のことなので、当初のシステム手帳のユーザーだった軍人や牧師と同じく、ビジネスマンが結果を出すためのツールとして受け入れられたのだろう。
1987年 バインデックスがシステム手帳を発売
能率手帳の日本能率協会も「バインデックス」ブランドを立ち上げ、システム手帳市場に参戦した。バインデックスも、バインダーやリフィルやパーツを一貫して作り続けている、システム手帳の老舗だ。
バインデックスはなんといっても能率手帳の用紙をつかったリフィルがすばらしい。シャーペンでも、油性ボールペンでも、万年筆でもゲルインクでも、筆記具を選ばない。
しかし、最近は元気がないのが心配。供給が中止となるリフィルが続出し、バインダーもパッとしない。
能率手帳ゴールドと同じレイアウトのウィークリーと、無地のメモ用紙だけは供給し続けててほしい。
2004年 「一冊の手帳で夢は必ずかなう」が発刊 システム手帳がブームに
あの分厚い手帳のインパクト。あれを持てば夢がかなう!? ということで大ヒットした本。
しかし、分厚いシステム手帳を持てばかなうほど、夢は甘くない。
熊谷社長に習うべきは、手帳ではなくその行動ではないか。
今再び、この本を読み返しているが、前書きで著者は「風呂にも手帳を持っていく」と述べている。
大げさでなく、ホントにやってるのだろう。その情熱が、手帳を分厚くし、成功を導いたのだ。
2016年 ファイロファックスが95周年記念でウィンチェスターの復刻版を発売
日本では200冊限定で発売されたそうな。逃してしまって残念。知ってても、高いから買えたかどうかわからないけど。
100周年の2021年にもなにかあるかな。そのころにはおカネを用意しておくので、ぜひウィンチェスターをまた!
システム手帳の歴史まとめ
というわけで、システム手帳の歴史を簡単にまとめてみた。
軍人が現場で的確に判断するための情報管理ツールとしてシステム手帳が生まれた。
バブル経済にわく80年代、システム手帳は日本に輸入され、単なる情報ツールから、公私において愛着を持ってそばに置く道具に進化した。
時は流れて時代は令和であり、スマホが普及して久しく、システム手帳は情報管理ツールとしては効率が悪くなったが、なぜかスマホだけにはまかせきれず、この古くさい道具を使い込んでいきたいのだ。